この記事では、電線や電熱線事業を展開している三ッ星の2021~2022年に株価上昇した要因(原因、理由)について、分析した情報を解説していきます。
三ッ星の企業概要
まずは、三ッ星の概要を確認していきたいと思います。
出典:2023年2集 会社四季報
三ッ星は、特色にも記載したように、キャブタイヤケーブルとプラスチック成形品の事業を展開している企業です。
キャブタイヤケーブルとは、通電状態でも移動させることができるケーブルのことで、ケーブルの内側には、電気が通る導体部分(銅がよく使われ、銅線と呼ばれる)があり、銅線の周りを電気をほとんど通さない絶縁体のゴムやビニールの被膜で覆うことで、通電や感電が起こらないようになっているケーブルのことを言います。
このキャブタイヤケーブルは、身の回りでいうと、エレベーターに使われており、それ以外にも発電所や工場など、大きな電力が使われる設備などで使用されています。
また、プラスチック成形品を作る、ポリマテック事業では、お客さんからの要望に応じて、製品設計・試作等の共同開発を行い、製品を納入する受注生産を基本としているようです。
今は、プラスチック(樹脂)も、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)と呼ばれる、耐熱性・機械的強度が高いプラスチックがあり、金属よりも軽量化することができるため、車や電化製品など、色々な場所で使われています。
そのような高機能プラスチックで、部品を作るためには、プラスチックを溶かして、そのプラスチックを所望の部品形状になるように形作られた金型や、成形条件(樹脂の溶融や冷却の温度調整や樹脂の射出圧力、金型圧力など)のノウハウが必要になりますので、三ッ星は、ポリマテック事業を展開していることから、そのようなノウハウを持っているのかもしれません。
それでは、三ッ星の2021~2022年に株価上昇したチャートを見ていきます。
株価チャート
こちらの月足の株価チャートで示した、赤四角で囲んだ部分が今回分析を行う株価上昇部分となります。
株価上昇に転じる前の株価の底が、約500円となっています。
その後、約5,000円付近まで上昇しているので、株価の底500円で三ッ星の株式を購入できれば、5000円/500円=1000%(10倍株)、夢のテンバガーとなり、三ッ星の株式を購入したお金が10倍に化けていたことになります。
100万円分購入していたら、1,000万円に変化ということですね。
それでは、気になる10倍株に変化した要因を分析していきます。
上昇要因の分析
財務面での分析
まずは、各企業のIRページにて、開示されている決算や有価証券報告書に記載の財務状況から、株価上昇の要因を分析していきます。
ちなみに、三ッ星の決算や有価証券報告書が開示されているIRサイトのURLは、こちらです。ご興味ある方は、ぜひご確認頂ければと思います。
財務面で確認する項目は、以下に示す通りで、投資の神様と言われるウォーレン・バフェットの指標(出典:バフェットの財務諸表を読む力)をお借りして、財務面の状況を確認していきたいと思います。
財務面の確認項目
- 売上高(営業収益)
- 純利益
- 流動比率(=流動資産/流動負債)
- 現金
- ROE(株主資本利益率=純利益/純利益)
- EPS(1株当たり利益=純利益/発行済み株式総数)
- キャッシュフロー・マトリックス
売上高・純利益
売上高と純利益は以下グラフのようになります。
株価上昇があった期間が、2021~2022年となりまして、2022年の売上高と純利益を見ると、売上高、純利益ともに、前年度(2021年)から増加しています。
この2022年の売上高と純利益の増加要因としては、決算短信によると、電線事業と電熱線・抵抗線事業の影響のようです。
■電線事業
電線事業においては、水回り関連や高所関連の新分野開拓、新製品開発(9件)、商品説明会の実施、海外販売の強化などを行うとともに、材料価格アップに伴う価格改定を行なった結果、電線事業の売上高は前年同期比25.4%増となったようです。(2022年3月期決算短信より)
■電熱線・抵抗線事業
電熱線事業においては、自動車に関係する産業機器、抵抗器等の部品向けを中心に需要が拡大し、特に産業用ロボット向け抵抗器需要が好調に推移したようです。
また、自動車のEV化やカーボンニュートラルの進展を背景に、電気制御に必要な抵抗器の需要は今後も拡大が続くと予測しているようです。
そのような状況や数年前から取り組んできた自動車関連、産業機器、抵抗器業界への新規開拓が成果として現れ、電熱線・抵抗線事業の売上高が前年同期比50.8%、利益が前年同期比478.9%となったようです。(2022年3月期決算短信より)
売上高と純利益の状況だけでは、株価がなぜあそこまで上昇したかは、読み取れないのではないかと考えられます。
その他財務状況
株価上昇の分析でも使いますが、主に投資対象としての適正を見る側面として、流動比率、現金、ROE(株主資本利益率)、EPS(1株当たり利益)、キャッシュフロー・マトリックスの数値を見ていきます。
ウォーレン・バフェット指標:過去5年以上0.5%以上か?
ウォーレン・バフェット指標:現金の推移は安定しているか、右肩上がりか?
ウォーレン・バフェット指標:株主資本利益率(ROE)は安定的に高い数値か?
参考:2018年 日本の上場企業ROE平均値9.4%(出典:経済産業省)
ウォーレン・バフェット指標:1株当たり利益(EPS)が安定的に高くなっているか?
ウォーレン・バフェット指標:キャッシュフロー・マトリックスが安定期もしくは投資期か?(下図参照)
これらの指標を確認すると、全体的にあまり良い数値ではなく、ROEやEPSは右肩下がり気味になっており、キャッシュフローマトリックスにおいても停滞期(2023年、2021年)や後退期(2022年)に属している年もあり、投資対象としては、あまり良い印象ではないのではないかと考えられます。
次に、日足でのチャートと各種テクニカル指標を確認し、もう少し詳細な株価上昇要因を見ていきます。
日足チャートとテクニカル指標での分析
日足チャートに、ボリンジャーバンド、MACD、RSIなどのテクニカル指標を追加したグラフがこちらです。(日足チャートのみと日足チャートにテクニカル指標追加したグラフを分けています)
■日足チャート
■日足チャート+MACD+RSI+出来高
※緑線:ボリンジャーバンド上線、青線:25日移動平均線、赤線:ボリンジャーバンド下線
<テクニカル指標説明>
ボリンジャーバンド: 一般的に、上線にローソク足が近づけば売り、下線にローソク足が近づけば買い(価格の大半が上線と下線の帯(バンド)の中に収まるという統計学を応用した指標で、様々な活用法がある)
MACD(Moving Average Convergence Divergence): ヒストグラムが「マイナス→0→プラス」で買いシグナル、「プラス→0→マイナス」で売りシグナル(売買タイミングを判断する指標)
RSI(Relative Strength Index): 一般的に70~80%以上で買われ過ぎ、20~30%以下で売られ過ぎ(買われすぎ、売られ過ぎを確認し、売買タイミングを判断する指標)
日足で確認すると、大きく株価上昇しているポイントが3箇所ぐらいあり、最終的に株価が約5,000円まで上昇したことが分かります。
それでは、その大きく株価上昇ポイントである、グラフに記載の赤四角部分、青四角部分及び紫四角部分の株価上昇分析をしたいと思います。
赤四角部分の株価上昇要因
まず、赤四角部分の期間(2021年7月付近)には、2022年3月期の第1四半期決算報告(2021年7月30日)および炭素繊維ワイヤーを使用した「マルチケーブル」製品化のお知らせ(2021年7月30日)をしています。
2022年3月期第1四半期決算
この決算では、連結経常利益が前年同期比45.7%増の6,700万円となり、上期(4-9月期)計画の1億3,000万円に対する進捗率が51.5%に達し、5年平均の44.5%を上回ったことを報告しています。(2022年3月期第1四半期決算短信より)
炭素繊維ワイヤーを使用した「マルチケーブル」製品化のお知らせ
このお知らせでは、2020年12月開催の『第4回コンポジットハイウェイ・アワード2020』でグランプリを受賞した「炭素繊維ワイヤー芯線による軽量・高強力・フレキシブルな電源ケーブル」の技術を実用化し、飛躍的な耐張力・耐屈曲性能を有し、高所作業や水中作業でも利用可能な「マルチ ケーブル(VR-CVCT-HS)」を開発したことを報告しています。
この「マルチ ケーブル」は、従来のケーブルに使われる線心の20倍の耐屈曲性能を有しているようです。(炭素繊維ワイヤーを使用した「マルチケーブル」製品化のお知らせより)
上記の好決算や新製品の開発が投資家の好感を買い、株価が上昇したと考えられます。
青四角部分の株価上昇要因
次に、青四角部分の期間(2022年5月付近)には、2022年3月期の連結決算報告(2022年5月13日)のお知らせをしています。
この決算では、連結経常利益が前期比7.3%増の3億200万円になり、従来予想の2億8,000万円を上回り、当初の減益予想から一転して、増益で着地したことを報告しています。
また、2023年3月期の経常利益の予想においても、前期比4.3%増の3億1,500万円となることを報告しています。
この当初減益と予想していた決算が増益になり、また、2023年3月期の見通しも、前期比で増益となることが投資家の期待を良い意味で裏切り、株価が上昇したと思われます。
紫四角部分の株価上昇要因
最後に、紫四角部分の期間(2022年7月付近)には、特に株価が大きく上昇するような材料となる、IRの適時開示は出ておらず、ファンダメンタルズ(経済活動等の状況を示す基礎的な要因を見る)的な部分では、上昇要因は分かりません。
ただ、テクニカル(株価チャートやテクニカル指標などの株価データを基礎に相場を見る)面においては、以下のグラフの紫部分で囲んだ部分が株価が上昇した部分となるのですが、株価の上昇が始まる部分(点線の四角部分)で、売買タイミングを判断する指標のMACDが「マイナス→0→プラス」となり、買いシグナルが出ています。
この買いシグナルを基に、元々好決算で期待もされていることがあり、株価が上昇トレンドに乗って、一気に株価が約5,000円に到達したと考えられます。
まとめ
この記事では、三ッ星(5820)の株価上昇要因について、解説しました。
今回の三ッ星の主な株価上昇要因として、以下のような要因がありました。
- 新製品発表
- 減益予想からの増益転換
- テクニカル指標の買いシグナル
今回の三ッ星のように、特に材料が無くても、好決算で期待値の高い企業で、かつ流動している株式数が少ない場合、テクニカル指標の買いシグナルを機に、機関投資家や資産を持った投資家が買いを一気に出すと、ストップ高になり、そのストップ高に引き寄せられたデイトレーダーなどが、さらに買い注文を出すことで、株価が急上昇することもあるようです。
このような銘柄は、中々狙って掴むのは、難しいのかなとは思いますが、三ッ星を応援したいと思って、株価の値動きがない時から株を持っていた株主は、今回の株価上昇はびっくりしたのではないかと思います。
世の中に色んな投資手法や投資の考えが溢れていますが、投資は自己責任なので、自分が納得できる投資手法や考えで投資を行うことが、勝っても負けても納得できる投資なのかもしれませんね。
長々と記載させて頂きましたが、お読み頂きまして、ありがとうございました。今回お読み頂いて、お読み頂いた方の気づきがあれば、幸いです。
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