この記事では、エナジー、プラント・インフラ、航空・防衛・宇宙などの事業を展開する重工業メーカー三菱重工業の2022~2023年に株価上昇した要因(原因、理由)について、分析した情報を解説していきます。
三菱重工業の企業概要
まずは、三菱重工業の概要を確認していきたいと思います。
出典:2023年3集 会社四季報
三菱重工業は、幅広い製品・技術を扱っている重工業メーカーで、エネルギー、航空、宇宙開発、船舶・海洋、交通システム、物流・運搬、環境装置、自動車関連、産業機械、インフラ設備、生活・レジャー、防衛、エンジニアリング事業と、私たちの生活していく上で欠かせない設備や機器を製作している企業です。
各事業を少し紹介しておくと、まず、エネルギー事業で言うと、火力発電、自然エネルギー発電(風力発電、地熱発電、水力発電など)、原子力発電の設計・製造を行なっており、原子力発電においては、開発から製造・運転・保守まで一貫したサービスを供給できるようです。(すごい技術力ですよね…)
次に、航空事業で言うと、アメリカのボーイング社が作っている航空機の複合材主翼の製造や航空機用エンジンの低圧コンプレッサーやタービンを製造しているようです。航空機そのものはボーイング社が作っていますが、航空機の各部品には、日本の技術が使われているのですね。
最後に、防衛事業で言うと、艦艇・特殊機械、戦闘機、ヘリコプタなどを取り扱っており、戦闘機の開発は日米共同で開発した
それでは、三菱重工業の2022~2023年に株価上昇したチャートを見ていきます。
株価チャート
こちらの月足の株価チャートで示した、赤四角で囲んだ部分が今回分析を行う株価上昇部分となります。
株価上昇に転じる前の株価の底が、約3,000円となっています。
その後、約9,000円付近まで上昇しているので、株価の底3,000円で三菱重工業の株式を購入できれば、9000円/3000円=300%(3倍株)となり、三菱重工業の株式を購入したお金が3倍になったということになります。
100万円分購入していたら、300万円に変化ということですね。
それでは、気になる3倍株に変化した要因・理由を分析していきます。
上昇要因の分析
財務面での分析
まずは、各企業のIRページにて、開示されている決算や有価証券報告書に記載の財務状況から、株価上昇の要因・理由を分析していきます。
ちなみに、三菱重工業の決算や有価証券報告書が開示されているIRサイトのURLは、こちらです。ご興味ある方は、ぜひご確認頂ければと思います。
財務面で確認する項目は、以下に示す通りで、投資の神様と言われるウォーレン・バフェットの指標(出典:バフェットの財務諸表を読む力)をお借りして、財務面の状況を確認していきたいと思います。
財務面の確認項目
- 売上高(営業収益)
- 純利益
- 流動比率(=流動資産/流動負債)
- 現金
- ROE(株主資本利益率=純利益/純利益)
- EPS(1株当たり利益=純利益/発行済み株式総数)
- キャッシュフロー・マトリックス
売上高・営業利益・純利益
売上高と営業利益、純利益は以下グラフのようになります。
株価上昇があった期間が、2022~2023年となりまして、2020年の営業利益において、赤字転落してから2021年から利益(営業利益と純利益)がV字回復していることが分かります。
2020年 営業利益の赤字転落の要因
まず、2020年の営業利益の赤字転落の要因については、航空・防衛・宇宙部門で事業を推進していたSpaceJet関連資産の減損損失を計上したことによる影響のようです。
SpaceJetは、開発当初はMRJ(三菱リージョナルジェット)と呼ばれており、国産初ジェット機になる予定でしたが、6度の納入延期を経て、2023年2月7日に開発中止が決まりました。
2022年 利益大幅回復の要因
次に、2022年の利益大幅回復の要因については、全セグメントにおいて前年度実績を上回り、過去最高を記録したことが大きな要因を占めているようです。
一方、材料費・輸送費の高騰などの減益要因はあったものの、サービス事業の強化、価格適正化、資産売却により、減益要因を吸収したことが利益大幅回復の要因のようです。
その他財務状況
株価上昇の分析でも使いますが、主に投資対象としての適正を見る側面として、流動比率、現金、ROE(株主資本利益率)、EPS(1株当たり利益)、キャッシュフロー・マトリックスの数値を見ていきます。
ウォーレン・バフェット指標:過去5年以上0.5%以上か?
ウォーレン・バフェット指標:現金の推移は安定しているか、右肩上がりか?
ウォーレン・バフェット指標:株主資本利益率(ROE)は安定的に高い数値か?
参考:2018年 日本の上場企業ROE平均値9.4%(出典:経済産業省)
ウォーレン・バフェット指標:1株当たり利益(EPS)が安定的に高くなっているか?
ウォーレン・バフェット指標:キャッシュフロー・マトリックスが安定期もしくは投資期か?(下図参照)
これらの指標を確認すると、ROEやEPSにおいて、2018年の赤字の影響で、マイナスになっており、キャッシュフローマトリックスにおいても、停滞期や破綻期に属する年度もあり、少し不安定な経営状況のように見えます。
次に、日足でのチャートと各種テクニカル指標を確認し、もう少し詳細な株価上昇要因を見ていきます。
日足チャートとテクニカル指標での分析
日足チャートに、ボリンジャーバンド、MACD、RSIなどのテクニカル指標を追加したグラフがこちらです。(日足チャートのみと日足チャートにテクニカル指標追加したグラフを分けています)
■日足チャート
■日足チャート+MACD+RSI+出来高
※緑線:ボリンジャーバンド上線、青線:25日移動平均線、赤線:ボリンジャーバンド下線
<テクニカル指標説明>
ボリンジャーバンド: 一般的に、上線にローソク足が近づけば売り、下線にローソク足が近づけば買い(価格の大半が上線と下線の帯(バンド)の中に収まるという統計学を応用した指標で、様々な活用法がある)
MACD(Moving Average Convergence Divergence): ヒストグラムが「マイナス→0→プラス」で買いシグナル、「プラス→0→マイナス」で売りシグナル(売買タイミングを判断する指標)
RSI(Relative Strength Index): 一般的に70~80%以上で買われ過ぎ、20~30%以下で売られ過ぎ(買われすぎ、売られ過ぎを確認し、売買タイミングを判断する指標)
日足で確認すると、急上昇→停滞期→急上昇と変化し、最終的に株価が約9,000円まで上昇したことが分かります。
それでは、株価が急上昇した各ポイントである、グラフに記載の赤四角部分および青四角部分の株価上昇分析をしたいと思います。
赤四角部分の株価上昇要因・理由
まず、初めに赤四角部分の期間(2022年2月~7月付近)には、ウクライナ紛争(2022年2月24日にロシアがウクライナへ軍事侵攻)が起こりました。
ウクライナ紛争
ウクライナ紛争は、2022年2月24日にロシアがウクライナへ軍事侵攻を行ったことで、ウクライナとロシアが激しい戦闘を繰り広げることとなり、2023年10月現在においても、紛争は続いています。
このウクライナ紛争と三菱重工業の関係が、どこにあるの??、と疑問に持たれたかもしれませんが、三菱重工業の企業概要にも記載させて頂いたように、三菱重工業は防衛事業を行なっており、この防衛事業がウクライナ紛争と関係しています。
もちろん、ウクライナ紛争と三菱重工業の防衛事業の直接的な関係はなく、思惑買いではあるのですが、ウクライナ紛争が起こったことで、日本も他国からの攻撃に備えて、防衛費を増加させる可能性があり、そうなると、防衛事業を行なっている三菱重工業の業績が向上するという、思惑買いが起こり、その影響により、日経平均株価が大幅下落の中、三菱重工業の株価は上昇しました。
青四角部分の株価上昇要因・理由
次に、青四角部分の期間(2023年4月~9月付近)には、2023年3月期通期決算(2023年5月10日)及び剰余金の配当に関するお知らせ(2023年5月10日)、2024年3月期第1四半期決算(2023年8月4日)を発表しています。
2023年3月期通期決算
まず、2023年3月期通期決算については、純利益が前期比14.9%増の1,304億円になることを発表し、また、2024年3月期の純利益予想が前期比45.6%増の1,900億円の拡大を見込み、10期ぶりに過去最高益を更新する見通しを発表しています。
この業績の良さと、過去最高益を更新する業績の勢いを投資家が好感し、株価が上昇したと考えられます。
剰余金の配当に関するお知らせ
次に、剰余金の配当に関するお知らせについては、期末の年間配当を2023年2月7日に公表していた配当から10円増額した70円とすることを発表し、前期の同配当55円に対して、15円増額した配当を行うことを発表しています。
2023年3月期通期決算の剰余金を配当として、株主に還元することを投資家が好感し、株価が上昇したと考えられます。
2024年3月期第1四半期決算
最後に、2024年3月期第1四半期決算については、純利益において、業績が良かった前期(2023年3月期)比2.8倍の531億円となったことを発表し、通期計画の1,900億円に対する進捗率が28.0%に達することを発表しています。
この好調な業績の要因としては、航空エンジン、製鉄機械、物流機器、冷熱などの事業の売上増やサービス事業の拡大、価格適正化、一時費用の縮小などが寄与したようです。
過去最高益の見通しを立てた2024年3月期の純利益予想の進捗率が順調に推移していることから、投資家の好感を買い、株価が上昇したと考えられます。
まとめ
この記事では、三菱重工業(7011)の株価上昇要因・理由について、解説しました。
今回の三菱重工業の主な株価上昇要因・理由として、以下のような要因・理由がありました。
- 他国の紛争による思惑買い
- 好調な業績
- 配当金の増額
今回の三菱重工業の株価上昇要因としては、他国の紛争による思惑買いのような、中々予想ができない上昇要因もありましたが、好調な業績を報告できたことが大きかったように思いました。
この好調な業績の要因としては、三菱重工業の経営努力の影響ももちろんあると思いますが、コロナから回復、日米金利格差上昇による円安、ウクライナ紛争によるエネルギー価格高騰、物価上昇など、様々な要因が絡み合ったことによって、適正価格への是正や海外からの売上増などが促進されたことも関係しているのではないかと考えられます。
現に、多くの大手企業が2023年に好調な業績を示しており、日経平均株価にも反映されていることからも上述したようなことが、各企業に影響を与えた可能性が高いと考えられます。
このように、今までの市場状況では考えられない、円安、物価上昇などが起こった際は、企業への影響も大きいと考えられるので、市場変化が起こりそうなイベントがあったときは、どのようなことが起こるかを予測することで、大きなキャピタルゲインを得られる可能性が高くなるのではないかと感じました。
以下の記事で、一般的な株価上昇の要因・理由を紹介してますので、ご興味ございましたら、ご確認頂ければと思います。
長々と記載させて頂きましたが、お読み頂きまして、ありがとうございました。今回お読み頂いて、お読み頂いた方の気づきがあれば、幸いです。
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