この記事では、しょうゆで有名なキッコーマンの2020年から2021年の間に株価上昇した要因(原因、理由)について、分析した情報を解説していきます。
キッコーマンの企業概要
まずは、キッコーマンの概要を確認していきたいと思います。
出典:2023年2集 会社四季報
キッコーマンは、しょうゆのイメージが強いですが、しょうゆ以外にも、みりんや料理酒、つゆ、ケチャップ、豆乳などを製造しているようです。
HPを見ると、しょうゆの種類だけで、42種類(2023年5月現在)もの数がありました。この種類の多さを見ると、私はエンジニアなので、商品数が多いと、ユーザーにとっては好みのしょうゆが見つかり、ユーザーフレンドリーではありますが、生産効率が落ちるのではないかと心配してしまいます。
と言いますのも、しょうゆの種類ごとに製造方法や原材料の配分を変えて作っていると思われますので、種類が多いと、段替え(作る製品にあわせて、装置の設定や治具を変更する作業)の頻度が高くなり、しょうゆを作っている時間が短くなってしまい、しょうゆの生産量が落ちてしまいます。
しかし、キッコーマンほどの大きい会社ですと、しょうゆの製造ラインも相当数あって、1つの製造ラインで複数のしょうゆを作らない、専用ラインなのかもしれないですね。
それでは、キッコーマンの2020年から2021年に株価上昇したチャートを見ていきます。
株価チャート
※緑線:ボリンジャーバンド上線、青線:12ヶ月移動平均線、赤線:ボリンジャーバンド下線
こちらの月足の株価チャートで示した、赤四角で囲んだ部分が今回分析を行う株価上昇部分となります。
株価上昇に転じる前の2020年の株価の底が、約4,000円となっています。
その後、10,000円付近まで上昇しているので、株価の底4,000円でキッコーマンの株式を購入できれば、10000円/4000円=250%(2.5倍株)となり、キッコーマンの株式を購入したお金が2.5倍に化けていたことになります。
100万円分購入していたら、250万円に変化ということですね。
それでは、気になる2.5倍株に変化した要因を分析していきます。
上昇要因の分析
財務面での分析
まずは、各企業のIRページにて、開示されている決算や有価証券報告書に記載の財務状況から、株価上昇の要因を分析していきます。
ちなみに、キッコーマンの決算や有価証券報告書が開示されているIRサイトのURLは、こちらです。ご興味ある方は、ぜひご確認頂ければと思います。
財務面で確認する項目は、以下に示す通りで、投資の神様と言われるウォーレン・バフェットの指標(出典:バフェットの財務諸表を読む力)をお借りして、財務面の状況を確認していきたいと思います。
財務面の確認項目
- 売上高(営業収益)
- 純利益
- 流動比率(=流動資産/流動負債)
- 現金
- ROE(株主資本利益率=純利益/純利益)
- EPS(1株当たり利益=純利益/発行済み株式総数)
- キャッシュフロー・マトリックス
売上高・純利益
売上高と純利益は以下グラフのようになります。
株価上昇があった期間が、2020年から2022年となりまして、その期間の売上高と純利益を見ると、2022年の売上高、純利益が大きく増加していることが確認できます。
2022年の売上高及び純利益の大きな増加要因としては、海外市場(北米、欧州、アジア・オセアニア)において、日本国内より一足早く、新型コロナウイルスの影響から回復したことにより、しょうゆ部門やケチャップ、コーンを扱っているデルモンテ部門の売上が大きく伸びたことが影響しているようです。(日本国内の売上は、昨年比で横ばい)
この2022年の好決算が、株価上昇に繋がっていたのではないかと考えられます。
その他財務状況
株価上昇の分析でも使いますが、主に投資対象としての適正を見る側面として、流動比率、現金、ROE(株主資本利益率)、EPS(1株当たり利益)、キャッシュフロー・マトリックスの数値を見ていきます。
ウォーレン・バフェット指標:過去5年以上0.5%以上か?
ウォーレン・バフェット指標:現金の推移は安定しているか、右肩上がりか?
ウォーレン・バフェット指標:株主資本利益率(ROE)は安定的に高い数値か?
参考:2018年 日本の上場企業ROE平均値9.4%(出典:経済産業省)
ウォーレン・バフェット指標:1株当たり利益(EPS)が安定的に高くなっているか?
ウォーレン・バフェット指標:キャッシュフロー・マトリックスが安定期もしくは投資期か?(下図参照)
これらの指標を確認すると、ROEが業種によって異なりますが、10%以上あれば優良と言われる中で、約9%台を推移していますが、2018年の日本の上場市場におけるROEの平均値が9.4%(経済産業省発表)なので、そこまで気にするような数値ではないと思われます。
それ以外の指標においても、優秀な数値となっており、さすがは日本の歴史ある、有名な上場企業(1917年設立)なので、投資対象としては、良い銘柄のように思えます。
次に、日足でのチャートと各種テクニカル指標を確認し、もう少し詳細な株価上昇要因を見ていきます。
日足チャートとテクニカル指標での分析
日足チャートに、ボリンジャーバンド、MACD、RSIなどのテクニカル指標を追加したグラフがこちらです。(日足チャートのみと日足チャートにテクニカル指標追加したグラフを分けています)
■日足チャート
■日足チャート+MACD+RSI+出来高
※緑線:ボリンジャーバンド上線、青線:25日移動平均線、赤線:ボリンジャーバンド下線
<テクニカル指標説明>
ボリンジャーバンド: 一般的に、上線にローソク足が近づけば売り、下線にローソク足が近づけば買い(価格の大半が上線と下線の帯(バンド)の中に収まるという統計学を応用した指標で、様々な活用法がある)
MACD(Moving Average Convergence Divergence): ヒストグラムが「マイナス→0→プラス」で買いシグナル、「プラス→0→マイナス」で売りシグナル(売買タイミングを判断する指標)
RSI(Relative Strength Index): 一般的に70~80%以上で買われ過ぎ、20~30%以下で売られ過ぎ(買われすぎ、売られ過ぎを確認し、売買タイミングを判断する指標)
日足で確認すると、株価の上下動を何度も繰り返しながら、最終的に株価が10,000円まで上昇したことが分かります。
それにしても、上のグラフの日足チャートのみと、日足チャート+テクニカル指標のグラフの幅が違う分、日足のロウソク足の幅が異なるのですが、ロウソク足の幅が違うだけで、株価上昇の勢いみたいなものの、印象が大きく変わって見えますね。
それはさておき、株価上昇ポイントが、複数ありますが、とりわけ大きく株価上昇している、グラフに記載の赤四角部分と青四角部分の株価上昇分析をしたいと思います。
赤四角部分の株価上昇要因
まず、赤四角部分の期間(2020年11月付近)には、2021年3月期の第2四半期通期決算の報告をしております。
この決算では、新型コロナウイルスの影響により、各国の状況が不透明であったことを理由に未定としていた連結業績予想及び配当予想を報告しています。
連結業績予想の内容としては、経常利益が前期比0.1%増の391億円、純利益が前期比0.01%増の266億円と、8期連続の過去最高益達成になることを報告しています。
また、年間配当予想を1株当たり42円とし、新型コロナウイルスの影響がありながらも、連結配当性向(1株あたり配当金/1株当たり当期純利益;EPSで計算)30%以上の安定配当を重視する方針を発表しています。
これらの報告によって、報告後2日間で株価が1,500円上昇し、決算前の株価が約5,000円だったので、約30%の株価上昇が起こっています。
これらの内容が投資家の好感を買い、株価が上昇したと考えられます。
青四角部分の株価上昇要因
次に、青四角部分の期間(2021年8月付近)には、2022年3月期の第1四半期決算の報告をしております。
決算報告では、営業利益が前年同期比23%増の143億円となり、上半期計画の214億円に対する進捗率が66.8%に達したことを報告しています。
この利益増加要因が、上の売上高・純利益の部分に記載しました、海外市場の売上が好調だったことが影響しています。
ただ、この決算発表後に、前日比670円増加の7,420円の株価を付けているものの、その後2週間は、大きな値動きはなく、7,000~7,400円の間を推移していたのですが、特に何の適時開示や材料もなかったのにもかかわらず、約3週間の株価連騰が続き、9,500円付近まで株価が上昇しています。
この株価上昇の要因については、調査しても、それらしき株価上昇要因は出てきませんでした。
ただ、ちょうどその頃、ジャクソンホール会議(世界中の中央銀行指導者が集まる経済シンポジウム)で米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長がアメリカの利上げに否定的な意見を述べたことから、投資家に安心感が広がり、日経平均株価が大きく上昇(当時はアメリカの利上げ発表によって日経平均株価が変動していた)したので、その影響もあり、海外の大口投資家や機関投資家が、業績好調なキッコーマンの株に投資し、株価上昇したのではないかと推測されます。
上記のような要因によって、株価の上下動を何度も繰り返しながら、各ポイントで上昇トレンドに乗って、2020年付近に4,000円だった株価が、2021年付近には、10,000円まで株価が上昇したと考えられます。
まとめ
この記事では、キッコーマン(2801)の株価上昇要因について、解説しました。
今回のキッコーマンの主な株価上昇要因として、以下のような要因がありました。
- 過去最高益の8期連続達成
- 新型コロナウイルスの中の安定配当継続
- 上半期計画に対する好進捗
キッコーマンの株価上昇要因の理由としては、以下のセリアと同じように過去最高益の連続達成や安定配当の継続、好業績による、成長の持続性による要因が大きかったのではないかと思われます。
※一部、適時開示や材料が見当たらず、株価上昇要因が不明確な2021年8月の株価連騰がありましたので、こちらについては、他の類似した銘柄を分析した際にヒントがあれば、追記したいと思います。
一方で、キッコーマンは、2023年4月に11期連続の過去最高益を達成したことを報告しているものの、株価は2021年12月に10,000円の高値を付けてから、それ以降、その高値以上の株価は更新できていません(2023年5月時点)。
おそらく、投資家の成長期待や市場の勢い、トレンドによって、業績が好調であっても、株価が追随しない、言えば歪み(ゆがみ)のようなものがあって、この歪みをうまく見極め、業績が良いのに割安や、一時的な外的要因(戦争、パンデミックなど)で売られ過ぎている銘柄などに、適切なタイミングで投資できるかが、中長期の投資で利益を得るための一つの要因なのではないかと感じました。
長々と記載させて頂きましたが、お読み頂きまして、ありがとうございました。今回お読み頂いて、お読み頂いた方の気づきがあれば、幸いです。
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